概要
気象レーダを用いた定量的降灰量推定に関するアプローチの仕方は工学的な方法と理学的な方法がある。前者のアプローチでは、レーダで観測されたレーダ反射因子差Zと地上で観測された降灰強度RAを比較することで経験的なRA-Z関係式が求められる。後者のアプローチでは、降灰粒子の粒径分布と形状の情報から理論的に計算されるレーダ反射因子Zと降灰強度RAから間の理論的なRA-Z関係式が求められる。
工学的なアプローチの問題点の一つは、地上の降灰強度のデータを得ることが困難であることである。通常、地上の降灰量の測定は噴火後の数時間後に人手を介してのサンプリングによっておこなわれるために、得られる地上降灰量は強度ではなく時間積算された降灰量である。一方、理学的なアプローチの問題点は、レーダパラメータや降灰強度の理論計算に必要な粒径分布や形状等の物理パラメータを得ることが困難なためである。
工学的及び理学的アプローチの問題点を解決する方法として、ディスドロメータの利用が提案され桜島で降灰粒子の観測が開始されている。ディスドロメータは降水粒子を測定するために開発された気象機器であり、降水強度の推定式の確立に用いられてきた。
ここではディスドロメータの原理、その観測データから得られた降灰粒子の粒径分布の特徴や定量的降灰量推定式について紹介する。また、レーダを用いた降灰量推定に及ぼす様々な誤差要因について述べる。
工学的降灰量推定式
工学的降灰量推定式は、地上の降灰量の測定値とレーダで観測されたレーダ反射因子を比較することによって求められる経験式である。これまで、2013年8月18日の桜島噴火、2016年10月8日の阿蘇中岳噴火について時間積算降灰量と時間積算反射因子の関係式を報告した。しかしながら,瞬間瞬間の降灰強度RAと反射因子Zの関係式、いわゆるRA-Z関係式については精度良い関係式は求められなかった。その理由は、従来の人手による降灰量サンプリング方法ではRAのデータが得られないためである。そこで、1分間毎のRAを測定できるディスドロメータと1分間毎のZを測定できる国交省XMPレーダを用いてRA-Z関係式を求めた。RA-Z関係式は噴火のタイプや規模に依存すると考えられるので、計6事例の桜島噴火についてRA-Z関係式を求めた。その結果を表1に示す。表1において、RAとZの単位はそれぞれ[kg m-2h-1],[mm6m-3]であることに注意。